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トレジャーズサンクチュアリ 第一章 冒険者

第五話 初任務とスキル

 今日は初任務の日である。まだ日が昇ってないけどね。
 起きることができるかどうか心配だったけど、何とか目が覚めた。
 日が落ちてからやることがなくて、すぐ寝たのがよかったんだろう。
 夜明け前ということでオリンさんたちはまだ起きていないから、そーっと宿から出ることに
する。
 朝食は収穫が終わった後にセドリックさんのお家でご馳走してもらえることになってるから、
頑張って仕事をしよう。

 そんなわけでセドリックさん一家と共に畑へ収穫に。
 セドリックさんの畑は結構広い。一つの畑が百平方メートルくらい。それが五面もある。
 その内のキャベツ畑とにんじん畑でせっせと収穫作業をする。
 その最中、なんとなく気になってみたので季節の野菜とかあるのか聞いてみたけど、思い当
たらないそうだ。
 この世界ではいつでも収穫できるんだろうか。それともこの地方だけなのか。そのうち調べ
てみようと思う。
 それはそれとして、旬の野菜を知らないってのはちょっともったいない気がする。
 やっぱ旬だと美味しいからねぇ。

 収穫が終わったら選別だ。
 セドリックさんが中心に、奥さんと娘さんは朝食の準備、ボクと息子さん二人は泥落としが
主な仕事だった。
 畑のそばにある用水路で、取れたての野菜を洗う。この用水路は近くのアクラス川から引い
ているそうだ。
 選別の仕方も教えてくれたけど、一朝一夕では難しそう。
 これからしばらくお世話になるだろうから、なるべく早く覚えて役に立てるようになりたい
ところである。

 一通り終えたらようやく日が昇ってきた。
 朝食の準備も出来たようで、黒パンとスープをいただく。
 スープには先ほど収穫した野菜の中で、商品にならないものが入っていた。
 オリンさんの料理も美味しかったけど、採れたての野菜もまた絶品である。
 それに今度はたんぱく質もあった。ジュナさんの家で獲ったブラウンディアの肉がスープに
入っていたのだ(野菜と交換だそうな)。
 鹿の肉は硬くて臭いがきついって聞いたことがあるけど、そんなことはない。
 スープに肉の旨味が溶け込んで野菜を引き立てているし、それでもなお、肉を噛めば旨味が
口の中一杯に広がるのだ。
 やっぱお肉は最高だね。

 朝食を終えてお腹いっぱいになったボクは、出荷する野菜を馬車に積む作業に入った。
 これが結構な重労働である。
 野菜が一杯に詰められた箱を馬車に載せる。それだけの作業なんだけど、まず重い。そして
傷つけたら商品にならないから慎重にやらないといけない。
 ということで、全て積み終えたころにはヘロヘロになってしまった。もっとも、体質ですぐ
に回復したんだけど。
 そんなボクを見たセドリックさんの奥さんから『若いっていいわね』と言われて思わず苦笑
してしまった。
 若さだけでこんな回復力にはなりませんよ、と心の中で呟く。口に出せるわけはない。
 代わりに『奥さんだってまだまだ若いですよ』って言うと、思いっきり背中を叩かれた。そ
こまで照れなくてもいいのに。

 出荷の準備が終わって小休止していると、ジュナさんとレスキンさんが馬車を引いてきた。
 何かと思ったら、隣町までの護衛だそうだ。めったにないけど、生物モブに襲われることもある
らしい。
 ジュナさんはついで(と言うか、こっちが本命)にブラウンディアを卸しに行くみたい。
 一緒に来るか聞かれたけど、残念ながらまだ仕事が残ってる。丁重にお断りした。
 ただ、いずれは見に行ってみたいと思う。この世界の暮らしについてもっと詳しく知る必要
があるだろうからね。

 最後の仕事は畑の手入れである。
 収穫が終わったところに残った葉っぱや根を取り除き、一箇所に集める。
 次に堆肥や腐葉土を畑の土に混ぜ込む。堆肥は人糞堆肥である。肥溜めってやつだね。
 発酵が進むとそれほど臭いはしないみたいで、思ったよりもきつくはなかった。十年くらい
発酵させるんだとか。
 ただ、集めるところは頼まれても絶対にやりたくない。生活に必要だからやってるんだろう
けど……、都会っ子のボクとしてはさすがに無理だ。

 後は未収穫の畑に生えている雑草をむしり取って、先ほど集めたところと同じ場所に運び込
み、腐葉土を作る材料とする、と。
 セドリックさんは隣町へ野菜の販売に行っているため、一緒に作業するのは奥さんとお子さ
んたちだ。
 農作業はずっと中腰で作業をするから腰が痛くなる。毎日こういう作業をしているのだから
農家の人には頭が下がる思いだ。
 まあ、日本では機械化が進んでいるからここまで大変じゃないかもしれないけど。

 出荷が終わって帰ってきたセドリックさんも途中で加わって作業を続ける。
 馬車から降りて開口一番、『ライルくんのおかげでいつもより高く売れたよ』って言ってく
れた。
 積み込みのときに痛んでしまう野菜が少なかったんだそうだ。お世辞かもしれないけど、役
に立ててうれしい。

 そんな感じでお昼までずっと働き続けた。
 雑草取りは終わりきらなかったけど、お昼までの約束だったのでボクの仕事はこれでおしま
い。
 どう考えても親子五人じゃ管理しきれない広さなので聞いてみたら、弟さん一家も手伝いに
来てくれるそうだ。納得。
 それでも人手が足りないからこうして依頼を出しているんだろうけどね。
 また明日も依頼を受ける、というか、しばらくは受け続けると伝えると『是非』と喜んでく
れた。
 こうして全て終わった後に、報酬の三十ペニーを受け取った。
 働いて報酬を得る。当たり前のことで単純なことだけど、非常に充実した時間だった。
 冒険者として働いているという感覚はまったく生まれなかったけどね。
 

 いい汗をかいて宿へ戻ったボクは、農作業でドロドロになった服を着替えて昼食を食べるこ
とにした。
 ついでに洗濯もお願いしておく。着替えが三着しかないから本当は何日か着た方がいいんだ
ろうけど、流石に無理だった。
 昼食を食べたらようやくやりたいことが出来る。確認したいことと言ってもいいかもしれな
いけど。
 それは――。

 スキルを鍛えることである。

 スキルを数字的に確認は出来ないんだけど、ボクは感覚的にわかる……はずだ。
 実際には慣れて上手く出来るようになるってことかもしれないけど、スキルレベルの上昇が
あるのなら普通よりはずっと早く上手くなるはずである。
 追加料金が発生しなかった昼食(朝食抜きだったので)を食べ終えたボクは、さっそく準備
に取り掛かった。
 と言っても用意したのは薪を数本と石ころ、これだけである。薪はオリンさんから借り、石
ころはその辺で拾った。

「さて、始めますか」

 今回鍛えるスキルは《投石》だ。
 石を投げて敵にダメージを与える遠距離攻撃用のスキルである。
 このスキルは単純に手で投げるとき以外にも、投石器スリング遠投投石機カタパルトを使うときにも適応され
る。
 トレサンゲームでは弓や魔法に比べるとダメージが低い、連射が効かない、射程が微妙、というこ
ともあってゴミスキル扱いだったんだけど、手持ちが少ない今のボクには初期投資ゼロで鍛え
られる唯一と言ってもいいスキルである。

 薪を並べて、十メートルくらい離れてから石を全力で投げる――外れ。
 再び投げる――外れ。投げる――外れ。投げる――外れ。投げる――命中!
 当たると『カン』といい音がして、薪が倒れる。なんか気持ちいい。
 気分が良くなったボクはひたすら石を投げ続けた。

「ふう、半分くらい当たるようになってきたな」
 三時間くらいぶっ通しで投げ続けていたボクは、いい加減休憩を取ることにした。
 ぶっ通しと言っても手持ちの石がなくなったら投げたのを回収しに行かなきゃいけないから、
投げるだけで三時間ってわけじゃないけどね。
 でも、始めたばかりだと二十パーセントくらいだったのでかなり上達してきたんじゃないか
な?
 慣れかもしれないけど、スキルレベルが上昇した効果の可能性が高い。上昇したとすればレ
ベル値だな。

 トレサンのスキルレベルには二種類の項目があった。レベル値と使用値だ。この二つの合計
値がそのスキルのスキルレベルということになる。
 レベル値というのは、キャラクターのレベルによって上限が決まっている値のこと。
 レベル×五+初期値で上限が決まり、そのスキルを使用したときにランダムで上昇する。
 初期値は種族によって異なるが、人間が基準に考えられており、人間の初期値は二十である。
他の種族は得手不得手によって、そこからプラスマイナス五される。
 ボクのレベルは一、種族は人間(としておく)なので、現在の上限は二十五のはずである。
 もう一つの使用値というのは、そのスキルを使用した回数が規定数に達したときに上昇する
値のこと。これには上限がない。使えば使うほど強くなれるわけだ。
 ただし、その規定数に達するのはかなり大変なのだ。確か百万回毎だったはずである。
 ゲームでは二ヶ月間そのスキルだけを使い続けてようやく達成できるかどうかの回数だ。と
てもじゃないがこの時間で達したとは思えない。

 ついでに言うと、最終ダメージとかに使用されるスキルレベルはこれ以外にも追加される。
 [上位]スキルのスキルレベルも一定割合で加算されるのだ。[上位]と言ってもスキルツリー
の上位に当たるという意味になる。
 《投石》なら、《遠距離攻撃》《遠距離武器》《投擲》《投石》といった感じである。
 加算される割合は、上位になればなるほど低くなる。この場合だと、十分の一、五分の一、
二分の一、といった感じだ。小数点以下は切り捨てで計算される。
 仮に全てのスキルレベルが二十五だった場合、
 《遠距離攻撃》二十五の十分の一で二
 《遠距離武器》二十五の五分の一で五
 《投擲》二十五の二分の一で十二
 《投石》二十五そのまま
 の合計値、四十四が《投石》の最終ダメージに適応されるスキルレベルになる。

 [上位]スキルのスキルレベルは、その下位にあるスキルを使用したときに上昇し、その仕組
みは[下位]スキルと一緒だ。
 [上位]スキルにはそれぞれいくつもの[下位]スキルがぶら下がって、複雑なスキルツリーを
形成している。
 これだけ聞くと複雑でわかりにくいかもしれないけど、実際に遊ぶ段階だとまったく気にな
らない。
 他のスキルを使い始めるときにちょっとだけ楽になる、くらいの認識である。
 今回育てている《投石》の場合、《遠距離攻撃》と《遠距離武器》が《弓》と同じなので、
《弓》に乗り換えたときにまったくのゼロから始めるよりは、少しだけ強い状態から始めるこ
とが出来るというわけだ。

 余談だけど、こういったデータは公式発表に加えて、有志が解析したものが含まれる。
 解析といってもツールを使ったものではなく統計から導いたものなので、恐ろしい時間と労
力と人数がかかっている。
 こういうデータ解析が好きな人間というのは、世界中どこにでもいるものなのだ。

 ボクは休憩を終わらせると、《投石》の効果を試すことにした。現実的にはどんな効果があ
るのか調べる必要があると考えたためだ。
 そして何度か試してみた結果、いくつかわかったことがある。
 まず、威力と命中率は反比例の関係があった。つまり、全力で投げれば威力は最大、命中率
は最低。軽く投げれば威力は最低、命中率は最大。当然のことながら薪に届く投げ方の範囲で、
という条件は付く。
 次に、山なりに投げての命中率だが、これは高さと命中率に反比例の関係があった。高く投
げれば投げるほど当たらなくなるのだ。まあ、高く投げるには威力を上げなきゃいけないから
当然かもしれないけど。
 最後に連射速度だ。これは五秒が限界だった。それ以上早く連射しようとすると、どうやっ
ても二発目以降の命中率が十パーセントを下回ってしまうのだ。
 精度と射程についても調べたい気持ちはあるけど、まず今の距離で薪のどこかに命中する確
率を百パーセントにする方を優先すべきだろう。もちろん、全力で投げて、だ。

 《投石》について多少はわかったことに加え、目標も定まったこともあり、ボクは再び石を
投げ続けることにした。
 命中率が五十パーセントになったのはいいんだけど、薪がすぐ倒れてしまっていちいち直し
に行くのが面倒だな。
 何かいい方法は……。

「そうだ! こうすれば……」

 思いついたことを早速試してみることにする。
 …………うん、上手くいった。かなり時間短縮になるな。
 両端に薪を置いて、その間を行ったり来たりするだけだけどね。
 石回収と薪直しをやるついでに反対側の薪から距離をとれば、元に戻る時間が短縮できるっ
て寸法。

 そんなわけで、《投石》を鍛えるのが楽しくて延々と石を投げ続けてしまった。
 途中でレスキンさんとトーラスさんが代わる代わる来て、『困ったことがあるなら相談に乗
る』って言われたけど何でだろう?
 思い当たることはまったくなかったし《投石》を鍛えることに集中したかったので、素っ気
無い返事で終わらせてしまった。
 せっかく気にかけてくれてたのに失礼だったなぁ。後で謝りに行こう。ついでにいろいろ話
して仲良くなれたらいいな。
 などと考えながらも、ひたすらスキルアップに没頭する。

 ボクが《投石》の訓練をやめたのは、日が赤く染まりかけたころであった。
 うん、気が付いたらこんな時間でした。ちょっとやりすぎたかな?
 命中率が五十パーセントになってからは上昇スピードが落ちて、終わらせたときはせいぜい
六十五パーセントであった。
 レベル値のランダム上昇は上限に近くなればなるほど上がりにくくなるから、それのせいか
もしれない。
 攻撃系のスキルなら強い敵と戦えばランダム上昇の確率に補正がかかるんだけど……、訓練
だとなんだろ? 距離を延ばしてみるかなぁ。
 トレサンゲームでは訓練なんてなかったから、この辺は試行錯誤といったところか。

 薪を片付けていたボクは、二十メートルくらい先からジュナさんが見つめているのに気づい
た。
 いつからいたんだろう? というか、ジュナさんも、なのか?
 レスキンさんたちのことも気になっていたボクは、片付けもそこそこにジュナさんに近づい
ていった。

「こんばんは、何か御用ですか?」
「…………」

 ジュナさんは真剣な目でボクを見つめてくる。深刻なことかな?

「あのね、ライルくん」
「はい」

 意を決したように重い口を開くジュナさん。
 大事なことなんだろう。姿勢を正して次の言葉を待つ。

「つらいことがあったのなら、溜め込まないでいいのよ」
「……はぁ?」

 思わずズッコケそうになった。どうしてそういう話になるんだ?
 レスキンさんもそうだけど、一体何がそう思わせたんだ?

「おねえさんがきちんと聞いて相談に乗ってあげるから……。話してみて、……ね?」
「いや、そういうことはないですけど」
「遠慮なんてしなくていいから――」
「遠慮じゃないです。そもそも何でボクがつらい思いをしたって思ったんです?」
「ライルくんが石ころ投げていじけてるってレスキンが……」

 それが原因か!
 傍から見たらそう見え……るかぁ?
 うーん、結構真剣にやってたんだけどなぁ。
 とりあえず誤解を解かないと――。

「いじけて石投げてたわけじゃないですよ。訓練です」
「訓練? 石を投げる?」
「はい。いじけて投げるだけなら薪はいらないですよね?」
「えっ、そう……かも」
「だから、いじけてたんじゃないんです」
「そう……なの?」

 ジュナさんはまだ納得していないみたいだ。ただ訓練とか言われても訳がわからないよね。
 ここはボクがやろうとしていることを説明しないとダメみたいだ。
 ジュナさんに協力してもらう必要もあるし、しっかり説明して納得してもらおう。

「ボクが石を投げていたのは、スモールラビットを狩るためです」
「は?」
「スモールラビットに石を投げつけて狩る訓練です」
「……あのね、ライルくん。石ころ投げてスモールラビットが狩れるわけがないでしょう。そ
ういう冗談を言うとおねえさん本気で怒るわよ」

 あれ? 聞こえなかったのかと思って言い直したら、なんかジュナさんが怒りだしたぞ?
 おかしいな。この世界だと《投石》って使われないのか? 投石器スリングとか使えばそれなりに威
力が出るはずなのに。
 このままではまずいと考えたボクは、必死で本気だということを伝えようとした。身振り手
振りも出し惜しみなしだ。
 その甲斐あって、何とか落ち着いてくれたようだ。

「……はぁ、もうわかったわ。本気だってのは十分伝わったから」
「ありがとうございます」

 最後はあきらめの境地だったのかもしれない。何にせよ、納得してもらったのはよかった。
 『ライルくんが変なのは今に始まったことじゃないし』って言葉が聞こえた気がしたけど、
気にしないでおこう。うん、そうしよう。

 それにしても、どうしてここまで否定されたんだろう? 現実との違いなのか?
 トレサンゲームではスモールラビットは最弱の生物モブだった。レベル一の初期装備でも一撃で倒せる
くらい弱かったのだ。
 《投石》のダメージが低いとは言っても、スキルレベル二十五もあれば一撃で倒せる。
 つまり、《投石》だけでもレベル値を上限まで上げれば、レベル一でも倒せるはずなのだ。
 当然最終ダメージには[上位]スキルも加わるため、上限まで上げる前に一撃で倒せるよう
になる。
 ドロップする肉が任務クエストに使えるってくらいしか倒す価値のない魔物だったけどね。
 その辺の違いを聞いてみることにしよう。

「スモールラビットってそんなに狩るのが難しいんですか? ボクが知る限りではそうでもな
いんですが」
「ええ、ライルくんがどこで知ったのかわからないけど、大変よ」
「教えていただけますか?」
「いいわよ。まず、警戒心が強くて近づくのが大変なの。次に、小さいから当てるのも大変。
足も速いから逃げられたら追いかけることは不可能よ。さらに、巣は出入り口が複数あるから
巣を狙って狩るってこともできないの」
「なるほど。確かに大変そうですね」

 トレサンゲームでは近づいても逃げていくなんてことはなかったからなぁ。現実的に考えれば普通
は逃げるか。
 となると、いきなり計画が頓挫?
 いやいや、とりあえずやってみてからにしよう。もしかしたら上手くいくかもしれない。
 そんな思いが頭をよぎる中、ジュナさんの話はまだ続く。

「それにね……」
「はい」
「美味しくないのよ」

 マジか! 食べて不味いとか値つかないじゃないか!
 はい、終わりましたー。ボクのお金稼ぎ計画頓挫でーす。
 思わずヤケクソになってしまった。
 ショックが大きい。ボクはがっくりと肩を落とした。

「売ってもお金にならないんですね……」
「売れることは売れるわよ?」
「でも、不味いなら買う人いないんじゃ?」
「あっ! そういう意味じゃないの。食べたら美味しいのよ」
「はい? じゃあ、美味しくないって――」
「狩りに必要な労力に見合った収入にならないの。スモールラビットを狩る実力があるなら、
ブラウンディアを狩ったほうが儲かるのよ」

 そういう意味だったかの。よかった、まだ頓挫してない。
 グラム単価は高いけど、一匹で取れる量が少なすぎるって意味だと教えてくれた。
 売値はブラウンディア一匹でスモールラビット五匹分くらいらしい。
 ただ、最近ではスモールラビットを狩る人がほとんどいなくなってしまったので、実際はも
う少し高く売れるかも、とのこと。
 ジュナさんならスモールラビットを五匹狩る時間があれば、ブラウンディアも同じ頭数くら
い狩ることが出来るみたい。
 なるほど、確かにそれなら美味しい獲物とは言えないな。

「なら、やっぱりスモールラビットを狩ってみようと思います」
「そ……そう。……頑張ってみてね」

 ボクの宣言に対して、ジュナさんはまだ狩れると信じてないみたいだ。
 ボクもまだ確信はないけど、少しでも可能性を上げておかないとね。
 そのためにはやっぱりジュナさんの協力が必要だ。

「それで……お願いがあるんですが……」
「お願い?」
「はい。森での狩りの仕方、具体的には獣道の見つけ方とか危ない場所の見分け方とか、そう
いうのを教えて欲しいんです」

 トレサンゲームでもこういったスキルはあった。ただし、初期段階では使えないスキルなのだ。
 《調査:野外》というスキルで、《探索》の下位に当たる。
 トレサンゲームでは盗賊ギルドのギルドマスターから教わるものだったけど、誰から教わっても同
じはずだ。
 スキルレベルが一になれば後は自分で鍛えればいい。

「うーん、確かに何も知らないで森に入るのは危険ね。わかったわ。おねえさんが教えてあげ
る」
「ありがとうございます」
「早い方がいいんでしょ? 明日のお昼くらいから始めましょうか」
「はい。是非お願いします」

 案の定と言うか、ジュナさんは快諾してくれた。
 これでようやくスモールラビットを狩る見込みが立った。後はボクの努力次第だな。頑張ろ
う。
 しかし、ジュナさんのボクの扱いは手のかかる弟って感じだな。悪い気はしないけど、なん
かこう……もやもやっとする。
 気にかけてくれてることはありがたいんだけどねぇ。

 次の日、セドリックさんの仕事を終わらせてから早速ジュナさんの指導を受けることになっ
た。
 訓練時間の指定はしなかったけど、ジュナさんの予定とかもあるからそれほど時間はかから
ないだろう。
 と高をくくっていたんだけど……、あまかった。
 夕暮れまでみっちりしごかれました。
 明日も同じくらいやる、って言われたときはもうどうしようかと。
 他のスキルも鍛えたいんです、なんて言っても理解できないだろうしねぇ。
 困っていたら、『石ころ投げもやりたいんだっけ?』と助け舟を出してくれた。もちろんボ
クの答えはイエスはいである。

 そんなこともあり、お昼から夕方までの時間の半分(大体三時間くらい)の間、ジュナさん
に狩りに必要なことを教えてもらう約束をしてから宿に戻る。
 これでスキルレベルを上げる計画も立ったかな。
 よし、明日からも農作業とスキルレベル上げを頑張ろう。
 そう自分に言い聞かせてベッドにもぐると、心地よい闇がボクの意識を包み込んでいった。
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